木漏れ日

あの人は、森の中へと帰ってゆく。
その理由を聞くこともなく、
ただ私は知っている。

あの人は、独り広い所で夜を明かす。
その理由を知ることもなく、
ただ私はわかっている。

あの人は、人知れず美味いものを食べる。
その理由を誰に言うでもなく、
ただ私もそうしている。

私はここでは到底生きられぬから、
空想し、小さな種を生み、育む。
それは森の中でこそ、為し得ることだ。

私はここではとても居心地が悪いから、
妄想し、小さな種を生み、育む。
それは自分の中でこそ、為し得ることだ。

私はここより、森の中へと歩いていく。
あの人はきっと、この辺りで昨夜過ごしたのだろう。
あの人はきっと、あの辺りで寝そべり空を見上げたのだろう。
あの人はきっと、その辺りで焚き木でもして、釣ってきた魚を焼いたのだろう。

森の住人たちが、鳴いている。
私はそれに合う詩を書き、口ずさむ。
夜が更ける。やがて朝日が昇り、葉から光を含んだ水が滴る。

風が、緩まった手の内から優しく私を撫でる。
掌から温もりが顔を出す。

それを見て森が微笑み、私の背を押す。
私は森の外へとゆっくりと、帰ってゆく。

本日も読んで下さりありがとうございます。書き始めたときに、「あれ、詩を書くつもりは無かったのにな」と思いつつも「まぁいいか」と私は私を止めず、気付けば大切なことが沢山詰まった、好みの詩ができていました。あなたにも気に入ってもらえたならいいな、と思いました。