急に寒くなり、お気に入りの長袖に腕を通す。久しぶりって挨拶をするみたいに少し伸ばして心地を確かめる。鏡で姿を眺め、ああこれこれと安心する。
あの子がオレンジ色の大きなマフラーを巻いていたことを、なぜだろう今、思い出す。十年以上も前の記憶。今となっては紛れもない、私に編み込まれたルーツという名の糸の話。寒空が無邪気にノックした私の中の遠く遠く。
温かい珈琲を飲む。変わりゆく街並みの中、加担者としての努めの合間。大人になったつもりもないまま歳を重ねて気付けばいまここ。変化を四季のせいにして、素知らぬ顔して秋からの私。
冬が来るね。季節を楽しみたいが故にまた、新しいコートを買う。お気に入りのマフラーをクローゼットの奥から見つける。寒空を味方につけて、新しい笑顔に出逢うべくブーツを履いて、扉を開ける。冷たい風が頬を化粧し、笑う。
本日も読んで下さりありがとうございます。季節が彩る、あなたを望む。